SUCCESSを成功させるために

掛下 哲郎 (知能情報システム学科)
平成12年度佐賀大学理工学部広報ScienTechより転載

佐賀大学学生部では、佐賀大学コンピュータ支援高度学生教育システム (SUCCESS)の検討を平成10年11月から開始した。その後、全学教務委員会等で の検討を経て、各学部から情報処理の専門教官を加えたワーキンググループが 平成11年9月に発足した。筆者は近藤 道男 理工学部長からの依頼を受けて SUCCESS WGに参加し各種の調査や検討に加わった。本稿では、WG委員として筆 者が感じた佐賀大学の現状、問題点、SUCCESSの目指すものについて記す。な お、本稿執筆の時点でWGは活動を続けており、最終報告書の内容が本稿と一致 するとは限らないことに注意されたい。

SUCCESSは、入学(入試)から卒業(就職)に至る学生関係情報をデータベース化 することにより、学務系事務業務の合理化を図り、併せて学生/教官等へのサー ビスを充実させることを目的としている。

中央省庁改革基本法に基づく定員削減により、当面10%、最終的には25%の職員 削減が求められている。これに伴って主に事務系職員が継続的に削減されてお り、平成10年9月には各学部の経理・用度事務が本部事務局に一元化された。 この動きはさらに加速しており、学部の総務/教務係も近い将来の一元化は避 けられない状況である。九州地区では、平成12年度までに主要7大学の大学本 部に教務課または学務課が設置(予定を含む)され、教務事務一元化が始まって いる。また、学部系事務には事務長、事務長補佐、総務係(2名)、教務係(2名) だけが配置されている大学もある。このような流れを受けて、教務関係事務の 合理化は不可欠である。

一方で、18歳人口の減少に伴う大学全入化時代の到来は、大学評価を通じた大 学間競争を生み出した。各大学はこれまで以上に個性化を図り、教育/研究の 質に対して責任を持つことが求められている。佐賀大学でも入試制度の多様化、 大学説明会、高校訪問、公開講座、各種広報誌(広報 佐賀大学や本誌 ScienTech等)等により情報公開に努力している。これらの努力は主として入試 や広報の分野で行われてきた。これに対して、学生情報サービス(入試、教務、 就職、奨学金等)は講義自身と並んで大学教育の中核をなす業務であり、在学 生の主要な関心事であるにも関わらず、その内容は立ち遅れたままになってい る。教官の立場からも、最新情報を必要な形式で利用することは、適切な修学 指導を行うための基本的な条件である。また、情報の一元管理は事務業務の効 率化にもつながる。各種情報のデータベース化及びデータベースを最新の状態 に保つための体制の構築は、このために不可欠である。

以上の目的を果たすためには、多くの課題(技術的課題および政策的課題)を解 決しなければならない。SUCCESS WGには佐賀大学における情報処理技術の専門 教官と教務系事務担当者がほぼ顔を揃えている。これは、主として技術的課題 の解決を使命とするWGの性格によるものである。政策的課題を解決するには、 予算および人員配置を含む強い権限が必要になる。従って、学長、学部長、評 議会、教授会といった佐賀大学の主要組織における検討が不可欠である。

データベースおよびソフトウエアを専門とする筆者から見て、SUCCESSの当初 計画は極めて曖昧なものであった。理工学部教授会でSUCCESSの計画概要を説 明する全学教務委員長に対して、技術的観点から強い危惧を指摘したのも筆者 である。WGに加わってからの仕事は、計画のアラ探しから始まった。導入を想 定されていたパッケージソフトのデモに備えて全学的な教務関係事項を綿密に 調査し、業者デモに対する詳細な質問を行った。また、データベース構造に関 する技術資料(注:マニュアルよりも詳細な情報源である)を入手して分析する ことで、納得できる技術水準にあることをようやく確認した。

次に行った仕事は他大学の調査である。たまたま学会で教務情報システムの導 入報告を行なった先生に対して質問の雨を降らせ、運用担当の事務官を紹介し て頂きインタビューを行った。また、同一パッケージソフトを導入している大 学の訪問調査を行った。さらに、新聞等で報道されたシステムトラブル情報も 収集した。これらの活動によって得られた運用上のノウハウや各種資料は SUCCESS WGにとって非常に価値のある情報となった。

さらに、佐賀大学における現状の教務情報システムについても調査を開始した。 現状の事務用計算機システム(オフコン)は平成11年度末でリースアップを迎え、 平成12〜16年度はパソコンシステムが稼働する。しかし、オフコン時代に外注 制作したソフトウエアをそのまま動作させるため、パソコン用OSの他にオフコ ン用のOSも搭載している。これらのソフトウエアには教務事務や入試事務といっ た大学としての基幹業務を行うものが含まれている。しかし、5年後にはオフ コン用OSが商品として存在しないことが専門家的立場から容易に予想できる。 従って、平成16年度末までには、これらに替わるソフトウエアシステムを構築 しなければならない。システム導入に必要な仕様策定作業、入札/契約事務、 ソフトウエア開発、システム移行、テストラン等には2〜3年程度の期間を要す る。政策的課題を検討するための時間等を考慮すると、意志決定のための時間 的余裕はそれほど多くはない。

SUCCESS WGでは、以上のような問題意識のもとでシステムの基本設計を進めて いる。平成12年3月には学生部の改組に伴いWGは解散する。その後の進行は学 長に委ねられる。

上記でも述べたようにSUCCESS導入はある意味で不可避である。しかし、無理 矢理導入させられたシステムが成功した例はない。SUCCESSを成功させるため の不可欠な条件は、教官と事務官の積極的な協力体制である。例えば、教官と 事務官では情報入手チャネルが異なる。従来、両者の意志疎通はスムーズとは 言えず、双方に誤解が生じることも多かった。SUCCESS WGでは教官と事務官の 双方が参加することで、多少とも事態の改善を試みた。そのためには、両者の 情報を共有することとface-to-faceの議論が重要であることを筆者はWGで強く 実感した。実際にシステムを運用する段階でも、両者の協力体制が重要になる。 事務官には業務を効率化するために、ExcelやAccessといったデータ処理ソフ トウエアを使いこなすことが求められる。一方、教官にも膨大な教務情報を具 体的な教育・指導に活用することが求められる。これに伴い、従来の教官/事 務官の仕事内容が質的に変化する可能性もある。

このように、本プロジェクトは大学教職員の意識変革を求めるものでもある。 また、従来は危機的な状況になってから対応策の検討が行われることが多かっ た。これに対して、本システムの導入には若干の時間的余裕が与えられている。 これは、状況に対応して事前に手を打つ必要性を認識するための良い機会とも 言える。以上述べたような意味で、本システムの扱いが佐賀大学の将来を占う 重要な試金石になると筆者は考えている。


sitemap