「大学の自治」や「学問の自由」はホンモノですか?

掛下 哲郎 (知能情報システム学科)
平成15年度佐賀大学理工学部広報ScienTechより転載
平成15年4月発行

佐賀大学では平成15年10月に迫った佐賀医大との統合や、平成16年4月に実施 が予想されている独立法人化に向けての議論が盛んに行われている。学長を中 心とする執行部は「佐賀大学始まって以来の存亡の危機」ととらえて活発に活 動している。一方、学内には「独立法人化反対!」を唱える教員も見られる。 しかし、多くの教職員は不安を抱えながら状況を見守っているのが現状と思う。

本稿では筆者の現状認識から始めて、佐賀大学がこうあって欲しいとの個人的 な希望を述べる。幸い一助教授の身なので、学長や学部長のように責任を負わ されている立場の方とは違い、好きなことを書けるのは喜ばしい。しかし、大 学人としての責任意識は持った上で、建設的な意見を述べたいと思う。

大学統合や独立法人化は大学が積極的に望んだものというよりは、実質的には 国から押しつけられたものだと思う。ただし、この種の「国による押しつけ」 は今に始まったことではない。国による教職員の定員削減は30年前から行われ ているし、大学が自主的に教育制度等を改善しようとしても、国の意向によっ て変更を余儀なくされるのは珍しいことではない。しかも、大学の教員や事務 官は、この種の押しつけにはかなり慣らされている。

筆者が感じるもう一つの現実は、国立大学は国に予算のほぼ100%を握られて いるという事実である。佐賀大学が必要とする年間予算(人件費も含めて約100 億円)のうち、国以外から調達する部分は微々たるものである。これでは、学 長や学部長といった佐賀大学の首脳陣が文部科学省に出向いて、自分より遥か に若い課長に頭を下げなければならないのも当然である。

このような状況の中で我々はどうすれば良いだろうか? 筆者は2年程前からこ の問題について関心を持って考え始めた。そしてたどり着いたのがマーケティ ングの概念である。マーケティングは「企業が儲けるための調査や広告宣伝」 と勘違いされるかも知れないが、世界的権威のフィリップ・コトラーは、「マー ケティングとは、価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて、 個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的、経営的過程」と定 義しており、ビジネス分野のみならず、非営利分野にもこの考え方が広く受け 入れられている。以下にマーケティングの基本ステップを示す。

Step 1:組織(我々の場合は佐賀大学や理工学部)としての使命を明確にする。
優れた使命が満たすべき条件
Step 2:事業(教育、研究、地域貢献など)の明確化
Step 3:現在実施中の事業を個別に評価する。
Step 4:評価結果に基づいて新たな行動計画を立案する。
これらの基本ステップについて徹底的に考え抜いている組織は少ない。しかし、 目標の重要性については多くの調査研究がある。

経済産業研究所が平成14年6月に出した「日本の優秀企業研究(中間報告)」で は、中長期に渡って成長し続けている企業の特徴が6点挙げられている。その 第一番目にあるのが、「企業のコンセプトが明快に説明でき、それが自企業で 採り上げる事業とそうでない事業の境界になっている」点である。

世界30ヶ国語に翻訳され、全世界で1200万部以上のベストセラーになったスティー ブン・コヴィーの「7つの習慣」では、他者に依存した状態から自立し、さら に他者との協調状態に至るための習慣を定義している。その中で、「組織内の 全員の価値観を反映したミッションステートメント(明文化された目標および 中心となる価値観)は強い一体感と決意を作り出す」ことが説かれている。

また、成功哲学として名高い「ナポレオン・ヒル プログラム」では願望を実 現するための6ヶ条が定義されている。成功しない第一の理由は明確な願望の 欠如にあることが膨大な調査に基づいて示されており、「実現したい願望を明 確にすること」が成功のための第一ステップになっている。

筆者の場合には、佐賀大学が目指すべき目標としては以下のように考えている。

そのために重視すべきことは以下の4点と考えている。(1) 個々の教職員が主 体的に行動し、教育や大学運営にも一定の権限や責任を負うこと、(2) 各学科 や委員会等の権限と責任を明確にした協調型の意志決定システム、(3) 教員が 個別ではなく、互いに協調して行う系統的な教育システム、(4) 外部からの資 金に過度に依存せずに存続できる適切な財政基盤の構築。

現在、佐賀大学の中期目標・計画が議論になっている。自分の将来を自ら創造 するために、教職員は主体性を持って建設的な議論を行ってほしい。

参考文献

  1. フィリップ・コトラー著、村田監訳、「マーケティング・マネジメント」、 プレジデント社
  2. スティーブン・コヴィー著、ジェームズ・スキナー、川西訳、「7つの習 慣」、キングベアー出版
  3. ナポレオン・ヒル著、田中訳、「思考は現実化する」、騎虎書房

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