技術文書作成 課題文 個人情報の保護に関する法律案及び関連四法案(内閣提出) 趣旨説明 個人情報の保護に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明申し上げます。 同法律案に関しましては、第百五十一回国会に提出され、第百五十五回国会において審議未了のまま廃案となった経緯がありますが、基本原則を削除すること等を内容とする与党三党修正要綱に沿って修正し、再提出することとしたものであります。 次に、本法律案の内容の概要を御説明申し上げます。 この法律案は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取り扱いに関し、基本理念、施策の基本となる事項、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務を定めること等により、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としております。 この法律案の要点を申し上げますと、第一に、個人情報の取り扱いについての基本理念を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、関係施策の総合的かつ一体的な推進を図るため政府が基本方針を作成することとするほか、国及び地方公共団体の施策等について規定しております。 第二に、個人情報データベース等を事業の用に供している一定の事業者が個人情報を取り扱う際に遵守すべき義務として、個人データの第三者提供の制限や、本人の求めに応じた開示、訂正等の義務を定めることといたしております。 同時に、義務に違反した場合における主務大臣による勧告及び命令、命令に従わない場合の罰則等も規定しております。 第三に、民間団体による個人情報の保護を推進する観点から、苦情の処理等の業務を行う団体に関して、主務大臣が認定を行うこと等を規定しております。 なお、報道、著述、学術研究、宗教、政治の五分野については、事業者の義務等に関する規定の適用を除外する一方、個人情報の適正な取り扱いのため必要な措置をみずから講じ、かつ、その内容を公表するよう努めなければならないこととしております。 以上が、この法律案の趣旨であります。 賛成討論 (1) 私は、自由民主党、公明党並びに保守新党を代表いたしまして、ただいま議題となりました内閣提出の個人情報の保護に関する法律案等関係五法案について、賛成の立場から討論を行います。 (2) 近年の高度情報通信社会の急速な進展のもと、各種の事業において、個人情報の利用は著しく拡大しております。 (3) しかし、残念ながら、顧客名簿の流出、インターネットホームページからの個人情報の漏えいなどの事例が発生しているのも事実であります。 (4) このような中、自分の個人情報が果たして適切に用いられているのかといった国民の不安感は解消されず、国民のプライバシー意識も高まりつつあります。 (5) 一方、このIT時代において、個人情報の有用性に着目をし、国民がIT技術の利便性を享受することも重要であります。 (6) すなわち、今、我が国に必要なのは、個人情報の有用性に配慮しつつ、プライバシーを初めとする個人の権利利益を保護することであります。 (7) 内閣提出の個人情報の保護に関する法律案は、まさに、このような今日的課題に的確に対応できる法案であり、IT時代における国民生活の保護のために不可欠な基盤法制であります。 (8) しかしながら、一部に、個人情報の保護に関する法律案はメディア規制を意図するものであるとの不安、懸念が払拭されない状況にあったことは、まことに遺憾であります。 (9) 与党三党としても、このような不安、懸念を払拭するための努力を重ね、与党修正要綱を昨年十二月に取りまとめました。 (10) 内閣提出の個人情報の保護に関する法律案は、この与党修正要綱に沿って、昨年廃案となりました旧法案を修正したものであり、具体的には、一、旧法案における基本原則を削除する、二、報道機関等への情報提供者に対し、主務大臣は関与しないことを明記する、三、報道の定義を明記する、四、報道機関に個人を含むことを明記する、五、著述を業として行う者を個人情報取扱事業者に対する義務規定の適用除外とすることを明記するなどの修正を行っております。 (11) この修正によりまして、個人情報の保護に関する法律案がメディア規制を意図したものであるという不安、懸念は払拭できたものと考えております。 (12) また、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案は、昭和六十三年に制定されました現行の行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律について、一、保護の対象となる個人情報の範囲を、電算処理された個人情報ファイルから、行政機関が組織的に保有するすべての個人情報に拡大する、二、新たに訂正請求権、利用停止請求権を明記するなど、現行法を全面的に充実強化するものであります。 (13) なお、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案も、昨年廃案となった旧法案から与党修正要綱に沿った修正を行い、行政機関におけるIT化の進展状況にかんがみ、行政に対する国民からの信頼を確保するため、新たに罰則を設けております。 (14) このたびの内閣提出の個人情報の保護に関する法律案及び行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案等の関係五法案により、官民の両分野において、IT社会にふさわしい個人情報の保護が推進されるものと確信しております。 (15) 以上、内閣提出の個人情報の保護に関する法律案等関係五法案に対する賛成の理由を申し述べました。 (16) 最後に、野党四党提出の法案につきましては、私は、対案をおまとめいただいて終始真摯な議論をしていただいた、私が経験する委員会の中で大変にすばらしい委員会であった、このように感じているわけでありまして、ただ、自己情報コントロール権やセンシティブ情報の取り扱い、第三者機関の設置などについて立場を異にするとともに、官僚や与党の大物政治家のための法律などという、そういう勘違いはぜひやめていただきたいなということも最後にお願いいたしまして、与党三党を代表しての賛成討論を終わります。 反対討論 (1) 私は、民主党、自由党、日本共産党、社会民主党提出の個人情報保護関連法案に賛成し、政府提出の個人情報保護関連五法案に反対する立場から討論を行います。 (2) 昨年までに政府が提出した一連の法案は、個人情報取扱事業者に対する主務大臣の権限が強大であり、義務規定の適用除外となる報道の範囲があいまいであるなど、個人情報保護の名のもとに官が国民を監視し、管理しようという意図が透けて見える一方、膨大な個人情報を取り扱う官僚に対しては甘い内容のものでした。 (3) そのため、野党四党は一致結束して撤回を求め、廃案に追い込みました。 (4) 政府は、廃案となった旧法案に、行政機関に関しては罰則を設け、報道機関等に関しては適用除外する等の修正を加えた上で、国会に出し直してきましたが、官僚による国民管理という思想が依然として背後にある一方、官僚みずからには甘い法案であることに全く変わりはありません。 (5) 先日、このことをまさに象徴する事件が発覚いたしました。 (6) 防衛庁が、自衛官募集のダイレクトメールを送るために、満十八歳を迎える適齢者の情報の提供を各市町村に要求し、石川県七尾市が提供した一覧表では、両親の離婚や別居などの家庭環境までが推測できる内容となっていたことが明らかになりました。 (7) この事件は、行政が家庭の情報を勝手に収集、蓄積して活用しているのではないかという国民の不安や不信をさらに増幅させることでした。 (8) 不透明に行われている行政側の情報収集や、センシティブ情報の収集を何ら禁ずることのない政府案では、この国民の不信や不安を到底払拭できません。 (9) 以下、野党四党案に賛成し、政府案に反対する理由を具体的に申し述べます。 (10) 政府案には、それぞれの個人が自分に関する情報はみずからコントロールできるという自己情報コントロール権に関する規定がありません。 (11) これでは、個人情報保護法制の哲学がないも同然であり、個人情報保護とは名ばかりのものとなりかねません。 (12) それに対し、野党案は、「個人情報の取得、利用、第三者に対する提供等に関し本人が関与することその他の個人の権利利益を保護する」旨の規定を法律に明記しており、自己情報コントロール権の社会的認知を後押しするための具体的な措置を講じています。 (13) 真の個人情報保護を実現するために、思想、信条その他の心身、経歴等に関する一般に公表を欲しない個人情報及び差別の原因となるおそれのある個人情報、すなわちセンシティブ情報については、特に慎重な取り扱いを求めるべきです。 (14) しかし、政府案には、そのような規定がありません。 (15) それに対し、野党案では、センシティブ情報の特に慎重な取り扱いを個人情報取扱事業者及び行政機関に義務づけています。 (16) 次に、個人情報の保護に関する法律案について申し述べます。 (17) 個人情報保護の名のもとに行政が恣意的介入を行えば、国民管理につながります。 (18) 法案作成に当たっては、個人情報保護の名のもとに行政が国民生活を管理し、干渉することのないよう、十分配慮しなければなりません。 (19) しかるに、政府案には、事業者に対する主務大臣の監督権限が依然残されており、恣意的な介入や特定業者との癒着が起こるおそれがあります。 (20) 特に、報道機関に関しては、放送機関、新聞社、通信社は適用除外と明記していますが、そのほかについては、「その他の報道機関」と一くくりにされており、主務大臣や官僚の裁量にゆだねられかねないおそれがあります。 (21) それに対し、野党案では、内閣府設置法第四十九条第二項に基づく第三者機関に権限を与え、国会への報告を義務づけるなどして、恣意的な介入や特定業者との癒着が起こらないよう最大限配慮する内容となっています。 (22) 新たな第三者機関設置は行政改革に反するという政府答弁がなされましたが、それは、見せかけの省庁の数だけで行政改革だと言ってきた橋本行革以来のまやかしにすぎません。 (23) むだな仕事をなくし、真に必要な組織をつくることこそが、今求められている行政改革にほかなりません。 (24) 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案について申し述べます。 (25) 個人情報を収集、利用する際の行政機関の裁量の幅が大きいと、国民監視になりかねないくらいに膨大な個人情報が収集されたり、悪用されるおそれがあります。 (26) 政府案では、個人情報の収集について、収集方法や収集範囲等を制限する明確な規定がなく、官僚にフリーハンドを与える内容になっています。 (27) また、個人情報の目的外利用の要件が緩やかで行政の裁量幅が大きく、本人の知らない間に個人情報が流用されたりするおそれがあります。 (28) それに対し、野党案は、利用目的以外の目的のために保有個人情報をみずから利用し、提供しようとすることに関しては、個人情報保護の観点から、一定の制限を設け、官僚の行動に歯どめをかけています。 (29) 高度情報化社会においては、簡単にデータのやりとりができます。 (30) 行政機関が勝手にお互いの保持する個人情報を交換して国民監視リストともいうべきデータリストをつくり上げたり、行政機関の巨大なデータリストを利用して有利に営業を行おうとする者がクラッキングしたりするなど、不法な目的外利用・提供や情報漏えいのおそれが常にあります。 (31) 政府は、目的外利用の制限で足りるとしていますが、野党案では、慎重に慎重を期して、データマッチングに関する規定を設けています。 (32) 個人情報に係る取り消し訴訟に関しては、国民全員の利便性に配慮する必要があります。 (33) しかるに、政府案には、裁判管轄に関する明示の規定がないため、東京地方裁判所以外には訴訟をできないことになっており、地方居住者の訴訟権の平等に対する配慮が欠けています。 (34) それに対し、野党案では、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができるものとしております。 (35) 膨大な個人情報を保持する行政機関には、特に厳しい姿勢で臨み、実効性のある罰則を設けなければなりません。 (36) しかるに、政府案では、罰則規定は、官僚等が利己的動機で個人情報を不正利用した場合などにしか対応しておりません。 (37) 防衛庁において、別の情報公開の担当者や関連部署から請求者の情報を聞き出すなどして、請求時には記述の必要のない情報公開請求者本人の生年月日や所属する市民グループなどの個人情報を記載したリストを作成したというような、さきに起きた事件は不問に付される可能性が非常に高く、その意味で、政府案は行政機関に甘い法案であると言わざるを得ません。 (38) それに対し、野党案は、行政機関に厳しい姿勢を求め、実効性のある罰則を設けております。 (39) 以上のように、政府案は、個人情報保護の名をかりて、官僚や与党政治家にとって有利な、住みやすい世の中をつくるための法案にすぎません。 (40) それに対し、野党案は、高度情報化社会における真の個人情報保護を目指すと同時に、表現の自由を初め、国民生活の自由に最大限に配慮した法案となっていることを最後に申し述べ、私の討論を終わります。