ユースケース作成事例

教務情報システムについて

ユースケース(Usecase)はオブジェクト指向設計との関連の中で参照されることが多い.しかしユースケースは設計パラダイムに依存しない仕様書記述手法として考えるのが妥当である.従って,他の設計技法(構造化設計等)を採用した場合でも,完全かつ矛盾のない仕様書を作成するために活用すべきである.



教務情報システムの概略仕様

以下の条件に基づいて,教務係の業務を実行するプログラムを設計せよ.

  1. 入試課は,入学する学生に関する情報(氏名,学籍番号,所属学科,入学年度)を教務係に通知する.
  2. 教務係は,学生の入学時に学籍簿を作成し,各学生に関する情報及び各学生の履修状況(科目番号,点数)を記録する.
  3. 各学科は,各開講科目に関する情報(科目名,科目番号,担当教官,必修/選択,単位数)を教務係に通知する.なお,各科目の担当教官は一名とする.
  4. 教務係は,開講科目に関する情報を保存する.
  5. 各学生は,各学期毎に履修届(科目番号リスト)を教務係に提出する.
  6. 各教官は,自分の担当科目の受講者一覧(科目番号,学籍番号リスト)を教務係から入手できる.
  7. 各教官は,科目毎に成績表(学籍番号,点数)を教務係に提出する(点数は0100点).
  8. 教務係は,履修届や科目別成績表に基づいて学籍簿を更新する.
  9. 各学生は,自分の成績一覧(学籍簿に基づいて作成)を教務係から入手できる.
  10. 各学科は,当該学科の学生に関する成績集計(学生別に必修科目と選択科目の単位数をまとめた資料)を教務係から入手できる.
  11. 教授会は,全学科の4年生の成績集計を教務係から入手できる.
  12. 教授会は,必修科目と選択科目の単位数に基づいて卒業判定を行う.


第1版(概略仕様に対する確認事項を列挙した版)

入学者の登録

参考要求文:12

  1. アクターは,入学生に関する情報をシステムに入力する.
  2. システムは,指定された情報を学籍簿に登録する.

開講科目の登録

参考要求文:34

  1. アクターは,開講科目に関する情報をシステムに入力する.
  2. システムは,指定された情報を開講科目一覧に登録する.

履修届の登録

参考要求文:5

  1. アクターは履修科目データの系列をシステムに入力する.
  2. システムは,当該学生の履修届がまだ受理されていないことを確認する.
  3. システムは,同一曜日の同一校時に複数科目が登録されていないことを確認する.
  4. システムは履修届を受理し,当該学生の学籍簿に科目番号を登録する.成績のフィールドは空とする.

受講者一覧の表示

参考要求文:6

  1. アクターは,システムに教官名を入力する.
  2. システムは,指定された教官が担当する講義の一覧を開講科目一覧から検索する.
  3. システムは,上記の各科目について,受講者の学籍番号一覧を学籍簿から検索して表示する.

成績の登録

参考要求文:78

  1. アクターはシステムに,成績データのリストを入力する.
  2. システムは,指定された学生が指定された科目を履修していることを確認する.
  3. システムは,指定された成績を学籍簿に登録する.

学生の成績一覧の表示

参考要求文:9

  1. アクターは,システムに学籍番号を入力する.
  2. システムは,指定された学生の履修科目名と成績を一覧表示する.

学科学生の成績集計の表示

参考要求文:10

  1. アクターは,システムに学科名を入力する.
  2. システムは,当該学科の学生を学籍簿から検索する.
  3. システムは,各学生が取得した必修単位数と選択単位数を求める.
  4. システムは,学生毎に上記の単位数を表示する.

4年生の成績集計の表示

参考要求文:11

  1. システムは,4年生を学籍簿から検索する.
  2. システムは,各学生が取得した必修単位数と選択単位数を求める.
  3. システムは,学生毎に上記の単位数を表示する.

全体的な確認事項


2版(第1版の確認事項に示した曖昧個所の解釈)

曖昧な個所の解釈

ユースケースの構造化


3版(抽象ユースケースを用いて構造化した版)

入学者の登録

参考要求文:12

  1. アクターは,入学生に関する情報をシステムに入力する.
  2. システムは,指定された情報を学籍簿に登録する.

開講科目の登録

参考要求文:34

  1. アクターは,開講科目に関する情報をシステムに入力する.
  2. システムは,指定された情報を開講科目一覧に登録する.

開講科目の消去

参考要求文:34

  1. アクターは,学科名をシステムに入力する.
  2. システムは,指定された学科が開講する科目に関する情報を開講科目一覧から消去する.

履修届の受付開始

参考要求文:5

  1. システムは,全ての学生の履修届を受理していないとする.

履修届の登録

参考要求文:5

  1. アクターは履修科目データの系列及び学籍番号をシステムに入力する.
  2. システムは,当該学生の履修届がまだ受理されていないことを確認する.
  3. システムは,登録科目が開講される曜日と校時を調べる.
  4. システムは,同一曜日の同一校時に複数科目が登録されていないことを確認する.
  5. システムは,登録科目を開講している学科を調べ,受講者の所属学科と一致することを確認する.
  6. システムは履修届を受理し,当該学生の学籍簿に科目番号を登録する.成績のフィールドは空とする.

履修届の受付終了

参考要求文:5

  1. システムは,全ての学生の履修届を受理済みにする.

開講科目一覧の表示

参考要求文:6

  1. アクターは,システムに教官名を入力する.
  2. システムは,指定された教官が担当する講義について,科目番号と科目名の一覧を開講科目一覧から検索して表示する.

受講者一覧の表示

参考要求文:6

  1. アクターは,システムに科目番号を入力する.
  2. システムは,上記の科目について,受講者の学籍番号一覧を学籍簿から検索して表示する.

成績の登録

参考要求文:78

  1. アクターはシステムに,教官名,科目番号,成績データを入力する.
  2. システムは,指定された学生が指定された科目を履修していることを確認する.
  3. システムは,指定された科目の全受講者の成績が指定されていることを確認する.
  4. システムは,指定された成績を学籍簿に登録する.

学生の成績一覧の表示

参考要求文:9

  1. アクターは,システムに学籍番号を入力する.
  2. システムは,指定された学生の履修科目名と点数を一覧表示する.

学科学生の成績集計の表示

参考要求文:10

  1. アクターは,システムに学科名を入力する.
  2. システムは,成績集計を行なう.
  3. システムは,集計された成績から当該学科の学生を検索して表示する.

4年生の成績集計の表示

参考要求文:11

  1. システムは,成績集計を行なう.
  2. システムは,集計された成績から4年生を検索して表示する.

成績集計

参考要求文:10, 11

  1. システムは,全学生を学籍簿から検索する.
  2. システムは,各学生が取得した必修単位数と選択単位数を求める.

学生の抹消

参考要求文:12

  1. アクターは,システムに学籍番号を入力する.
  2. システムは,指定された学生の学籍簿を消去する.


質問,コメントは掛下(kake@is.saga-u.ac.jp)まで


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