佐賀大学理工学部  コンピュータ・ソフトウェア研究室 佐賀大学理工学部  コンピュータ・ソフトウェア研究室

取り組み

IT技術者を対象とした上級資格制度CITP

掛下 哲郎(知能情報システム学専攻)

平成26年度佐賀大学理工学部広報ScienTechより転載

2015年9月発行

 

情報処理学会ではIT技術者を対象とする上級資格制度の検討を進めてきたが,2014年度から認定情報技術者制度(CITP:Certified IT Professional)として本番運用を段階的に開始した. 筆者は,この制度の企画段階から検討に参加し,CITP制度の制度設計,審査,運営,広報活動等を進めてきた. 本稿では,CITP制度の趣旨およびその狙いについて,特に筆者が強く関わった部分を中心に紹介したい.

 

国勢調査によると日本の技術者総数は約250万人だが,そのうち約100万人はIT技術者である. 社会のあらゆる分野でITを活用したサービスが重要な位置を占めており,ITは企業経営や社会における様々なイノベーションをもたらす技術としても大きな期待を集めている.これを受けて安倍政権も「最先端IT国家創造宣言」を閣議決定・推進している.

 

重要な業務に携わるIT技術者には高い能力が求められる.資格制度は個人の能力を証明するツールなので,IT技術者に仕事を依頼する際やIT技術者を雇用する際には,上級資格を活用することで当人の能力の高さを確認できる.

 

ひとくちにIT技術者と言っても様々な職種がある. 一般的に認識されている職種としてはSEやプログラマがあるが,その他にもITアーキテクト,プロジェクトマネージャ,セキュリティエンジニア,エバンジェリスト,マーケター,データサイエンティスト,CIO(最高情報責任者)など様々な職種がある. IT技術者の活動領域は技術以外の分野にも及び,日々増え続けている.

 

IT分野の様々な職種に対応して数多くの公的資格や民間資格が提供されているが,それらの資格制度が証明する能力や,異なる資格間の関係は,必ずしも明確でない. また,IT技術者の活動範囲が拡大する中で,資格制度にもグローバル化が求められているが,日本国内でしか通用しない資格が多い.

 

そこで,CITPは経済産業省が策定したITスキル標準(IT技術者に求められる能力を7段階のレベルおよび35の職種・専門分野毎に定義したもの.以下,ITSSと略記)を参照して能力の明確化を図っている. また,国際標準ISO/IEC 24773(ソフトウェア技術者認証)に従うことで,グローバルな通用性を確保している. 現在,ISO/IEC 24773の改訂作業が進行しているが,筆者は改訂作業のco-editorも務めている.

 

日本における最も有名なIT資格は情報処理技術者試験(ITSSレベル1~4に相当)である. CITPは情報処理技術者試験(高度試験,ITSSレベル4に相当する知識・スキルを評価)の合格者に対して実務経験の確認を行うことで付与する. 日本の大手ITベンダーは,ITスキル標準に基づいた社内資格制度を運営していることが多いが,社内資格制度がITSSレベル4相当以上のレベル(高度な知識・スキルを持ち,他のIT技術者を指導できるレベル)に達していると認められる場合,その社内資格の保持者にもCITPを付与する. 将来的には技術士(情報工学)等の資格保持者に対してもCITPを付与する計画である. こうした取り組みを通じて既存のIT資格を相互に関連付けることができる(下図).

 

ITSSレベル4相当以上の能力を持つIT技術者が日本には30万人以上いると推計されているが,CITP保持者による情報系のプロフェッショナルコミュニティを形成し,能力に応じた継続研鑽や社会貢献の場を提供することがCITPのより大きな目的である.

 

 

この取り組みに対しては,IPA(情報処理推進機構),経済産業省,日本技術士会・情報工学部会,文部科学省等の協力も得ている. マスコミからも注文されており,日経IT Proに掲載された紹介記事は月間アクセス数第1位を獲得したそうである.国際的にも関心を集め,筆者のインタビュー記事は米国のコンピュータ学会ACMのLearning Center Bulletin等にも掲載された./p>

 

理工学部4学科ではJABEEによる認定を取得することで,学生の学力を証明すると同時に,技術士一次試験の合格と同等の資格を卒業時に付与している. また,情報処理技術者試験は誰でも受験できる. CITP制度は立ち上がったばかりであるが,IT技術者として社会に出た学生がCITPを目指すことで,卒業後のキャリア形成にも役立つような制度に育てたいと考えている.

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